ランニングに耐えられる筋力があるかチェックしてみよう
何度かランニングに挑戦しましたが、毎回、膝を痛めて走るのを止めてしまっていました。膝を痛めずにランニングを続けるコツはありますか?
- 中野ジェームズ修一さん(以下、中野)
走るときは、体重の約3倍の衝撃が膝関節に加わります。また、20歳を過ぎてから運動をしないでいると、年に約1%ずつ筋肉量が減ると言われています。このとき、上半身やお腹まわりの筋肉よりも、下半身の筋肉の方が圧倒的に減っていくんです。
膝関節まわりの筋肉が減った状態で、いきなり3倍もの衝撃が何回も連続して加わると、膝が痛くなるのは当たり前。このような理由で、初心者ランナーのほとんどが膝を痛めます。
スポーツトレーナーとしては、膝を痛めないためにも、筋トレやストレッチをしっかりしましょうと言いたい。しかし、せっかく走ろうと思ったのに「まずは筋トレから始めなさい」と言われたら、気持ちが萎えてしまいませんか?
モチベーションが下がってしまいますね。
- 中野
膝の痛みは、体からのサインなんです。例えば、3km走って膝を痛めたら、その距離に耐えられるだけの脚がまだできていないということ。「あなたの脚は3kmのランニングできる筋力がないですよ」と、体が教えてくれているんですよ。
3kmで膝が痛くなるなら、距離を減らして2kmにすればいい。2kmでもまだ膝が痛いなら、1kmにすればいいんです。どのようなコースで、どのくらいのスピードで、何km走れば痛くなったか、一度振り返ってみましょう。
自分の脚は1km走るのが限界だと分かったら、しばらくは1kmのランニングを続けてください。ランニングを続けるうちに、脚に筋力がついて、もっと長い距離を走れるようになってきます。
どのくらいの期間、同じ距離のランニングを続ければいいのでしょうか?
- 中野
個人差はありますが、まずは2週間走り続けてみてください。3週目あたりから、500mまたは1kmずつ距離を増やしましょう。そのペースで2カ月ほどランニングを続けると、走るための基礎筋力がついてきます。その頃には距離を増やしても、膝が痛くならないはず。
もともと運動をしていない場合、1kmを走れるだけの筋力があるかも心配なのですが……。
- 中野
ある程度の距離を走れるだけの筋力があるか、簡単にチェックする方法があります。この動作ができなければ、走るための筋力がついていないと考えてください。

- 中野
高さ40cm程度の椅子に浅く腰掛け、両手を胸の前でクロスさせて、片脚を床から離します。

- 中野
その後、片脚を上げたまま、ゆっくり立ち上がってください。

- 中野
立ち上がった後は5秒静止。両脚ともこの動作ができるかチェックしてみましょう。
- 中野
この動作ができない人は、どうすればいいですか?
- 中野
ランニングを始める前に、次の方法で脚の筋力をつけてください。1つは、ウォーキングです。ランニングと同じように、2週間同じ距離を歩いて、3週目から距離を増やしていきましょう。
もう1つが筋トレです。今回は、すき間時間で実践できるトレーニングをお教えします。

- 中野
椅子に浅く腰掛け、片足を床から離します。

- 中野
手を椅子かテーブルについたまま、片足で立ち上がります。

- 中野
手を椅子かテーブルについたまま、再び椅子に腰掛けます。この1セットを左右交互に10~20回を目安に行いましょう。
ランニングコースはどのような場所を選ぶべき?
初心者がランニングを行うときは、どんな場所を選んだほうがいいのでしょうか? 軟らかい地面のほうが走りやすいなどはありますか?
- 中野
できるだけ軟らかい地面のほうが、膝に衝撃を与えずに済むと思っている方が多いですが、そんなことはありません。人間の体は、路面が土でも芝でもアスファルトでも、膝関節に受ける衝撃が同じになるように作られています。
例えば、土の上を走る際、1歩目を踏み込んだときに、脳が地面の硬さを察知します。2歩目はどのくらい膝を曲げて、どのくらい筋肉を使って衝撃を吸収すればいいか、瞬間的に計算するんです。土の上をずっと走っていて、途中から地面がアスファルトに変わっても、1歩目で地面の硬さを察知して、膝の角度や筋肉の使い方を瞬間的に調整します。
地面が軟らかくても硬くても、関節に与える衝撃は同じなので「どちらでもいい」が、質問への回答になりますね。関節を痛めないために初心者ランナーが一番気を付けたいのは、地面の硬さではなく、できるだけフラットなコースを選ぶということです。

その理由は?
- 中野
膝関節の一番のウィークポイントは「ねじれ」です。地面がデコボコしていて不安定だと、着地のときに膝関節が回旋して、ねじれが生じます。「地面が軟らかいから」という理由で、初心者が山道を走ったり、トレッキングに挑戦したりすると、膝関節をケガする可能性が高くなります。
また、滑りやすい場所も要注意。ランニングを始めると、雨の日も走りたくなりますが、石畳などは濡れると滑りやすく、膝関節を痛める原因になります。
ランニングを始めるには、フラットなコースを探すのが大事ですね。
- 中野
公園の遊歩道など、できるだけフラットな道を選んで走ってください。ただ例外的に、ランニングコースに歩道橋を組み込むのもオススメですね。階段の上り下りは、足腰を鍛えるのに最適な動作だからです。歩道橋を渡るときは歩いていいので、1段飛ばしで上り、足をしっかり着地させることを意識しましょう。
トップランナーも走り始めは苦しい
- 中野
筋力と同じように、心肺機能も走り続けることで向上していきます。初心者ランナーにありがちなのが、走り始めの苦しさに耐えられずに「自分は長い距離を走れない」と思い込んでしまうこと。でも、走り始めが苦しいのは、トップランナーも実は同じです。
身長や体重、性別によって多少の差はありますが、人間が座っているときに体の中に流れている血液量は、約5リットルといわれています。ところが、走るときは、5リットルではとても足りません。大きな筋肉を連動して動かすためには、血液を介してたくさんのエネルギーを送り込む必要があるからです。
- 中野
走るときは、どのくらいの血液量が必要なのでしょうか?
- 中野
座っているときの約5〜6倍の血液量が必要といわれています。つまり、25〜30リットルの血液量が必要ということですね。走り始めるときの血液量は5リットルなので、心拍数を早めて、体中にできるだけ多く血液を供給しなければいけません。走り始めが一番苦しいのは、このためです。
3kmほど走り続けると、徐々に血液量が補填され、心臓の拍動が少なくても、血液がたくさん回るようになり、呼吸が楽になってきます。
先ほども言いましたが、走り始めが苦しいのは、初心者もトップランナーも同じ。私にとっても、最初の1〜2kmは一番嫌な時間です。急にスピードを上げると、たくさんの血液量が必要になるので、苦しさを軽減するためには、スローペースで走り始めたほうがいいですね。
ランニングを長く続けるコツは「無理をしないこと」
初心者ランナーは、張り切るあまり、無理をしがちです。「1週間に4日以上」「1日3km以上」といった自分の体や生活リズムに合わない「高すぎる目標設定」が、ケガを招き、ランニングを諦める原因に……。
「いままで運動をしなかった人が、ランニングを始めようと思うだけで、素晴らしいこと」と中野さんは話します。ランニングを長く楽しく続けるためにも、自分がどのくらいの距離を走れるか冷静に判断し、少しずつステップアップを目指しましょう。また、万が一膝を痛めてしまった場合は、以下の記事を参考に適した対処を心がけてください。
取材対象者プロフィール:
中野ジェームズ修一さん
PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー
米国スポーツ医学会認定運動生理学士
(株)スポーツモチベーション 最高技術責任者
(社)フィジカルトレーナー協会(PTI) 代表理事
「理論的かつ結果を出すトレーナー」として数多くのトップアスリートやチームのトレーナーを歴任。特に卓球の福原愛選手やバドミントンのフジカキペア(藤井瑞希選手・垣岩令佳選手)の個人トレーナーとして広く知られている。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化も担当。ランニングなどのパフォーマンスアップや健康維持増進のための講演、執筆など多方面で活躍。近年は超高齢化社会における健康寿命延伸のための啓蒙活動や、生活習慣病対策を軸とした企業の健康経営サポートなどにも注力している。性差に配慮したトレーニング指導という概念の先駆者でもある。自身が技術責任者を務める東京神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」で幅広い層から支持を集め活況を呈している。主な著書に『医師に運動しなさいと言われたら最初に読む本』(日経BP)『青トレ』(徳間書店)などベストセラー多数。書籍の累計発行総数は200万部を超える。NHK趣味どきっ!柔軟講座でもおなじみ。
(取材&執筆:東谷好依 撮影:藤原慶 編集:ノオト)
